36号 蕎麦打ちに起こる不連続な変化 (2008/11/16)
秋も深まってきました。いかがお過ごしでしょうか。
今日は、蕎麦打ちの過程で起こる変化というお話をさせていただきます。

蕎麦打ちの過程というのはごく単純なもので、粉と水を混ぜてこねて伸して切るだけのことです。
でも、サラサラした白い粉が麺になっていく変化というのは、ある意味魔法のようなもので、蕎麦打ち体験をされた方は皆さん等しく感激されます。

その変化していく中で、ある種不連続な、突然の変化が起こる瞬間があるのはご存知でしょうか。
今日はそのお話をさせていただきます。

最初の大きな変化は、水回しの時に起こります。
水回しというのはそば粉に水を入れて撹拌するところを言うのですが、水が粉に均等に行き渡るようにするという意味で、水回しといいます。
このときに、色と感触が劇的に変化するのです。

蕎麦粉というのは粉の状態では意外に白っぽいものなのです。で、これに水を加えまして、ひと混ぜふた混ぜします。まだ白いまま。
そこで10本の指を立ててガーーッとかき回します。指で粉を切るように。粉の粒子一粒一粒に水気がまぶされるように。
そうすると少し灰色っぽくなってくるんですが、まだ白いコナコナした感じです。

さらに勢いよく攪拌し続けます。そうしているとアラ不思議、ある瞬間に色がサッと濃くなるのです。
さっきまで白っぽかったのが、うぐいす色とでも言うのでしょうか、少ーし緑がかった灰色に変わるんです。
同時に感触も、乾いた粉っぽい状態からしっとりした手触りに変わります。
うまく粉に水が回りましたよ、と教えてくれているようです。

その次に変化するのは、これをまとめてこねている時です。体重をかけて、少し転がしながら練っていくのです。
最初は多少硬さがあって、手に対して抵抗してくるのが、ある瞬間にフッと柔らかく、素直な感じになるんです。
水と粉が充分なじみました、もう大丈夫です、って、蕎麦粉がそう言っているのです。そうなると表面もしっとりすべすべになっています。
「よし! 今日もうまい蕎麦になりそうだ」と心の中で快哉を叫ぶ瞬間です。

でもこちらは、水の量が本当にピッタリの時にしか実感できない微妙な変化でして、正直申しまして、毎回じゃないんです。
まだまだ修行が足りません。

さてそれを伸ばして切って蕎麦になるのですが、最後茹でるところでまた微妙な変化があるらしい。茹だるとさっと色が変わるというのです。
モノの本にはこう書いてあります。
「蕎麦は釜に入れられた時は黒っぽく、身がしまって見えます。ところが、ある時間が過ぎると、一瞬のうちにふわりと膨らんで、透き通って見えます。」(藤村和夫氏著「麺類杜氏職必携」)

でも私には、この変化はまだまだわかりません。その本にも「毎日毎日釜の中を泳いでいるそばを見ていて初めてわかる変化で、・・・一種のカンかもしれません。」とありますので、ホント、微妙な変化なのでしょう。奥が深いというか、職人芸的というか・・・

修行の足りない私は、キッチンタイマーを頼りにしています。

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話は変わりまして、秋から冬にかけての今の季節、メニューに「柿」と「牡蠣」が両方登場することがありますが、これが我が家のチューボーに混乱を引き起こすというオバカバカシイ話を一つ。

犯人は「カキ」のイントネーションです。

標準語では、柿は「低・高」、牡蠣は「高・低」
関西弁では、柿は「高・高」、牡蠣は「低・高」
信州人の家内と関西人の私では、言葉が通じない好例であります。

「カキ、できたよ」
「ええ? どっちのカキ?」
などと、やっております。

おあとがよろしいようで・・・


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