20号 合唱のことなど (2007/7/1)
前回のメルマガで、次回は合唱のことを書きますと予告いたしました。というのは、昨日6月30日土曜日に、私が所属している合唱団、アカデミカコールの演奏会があるからだったのです。

アカデミカコールといいますのは、東大の男声合唱団コールアカデミーのOB合唱団です。平均年齢60ウン歳、今をときめく団塊の世代を中心とした元気なおじさま合唱団です。私はこちらでは最年少の部類。

今回の演奏会は、京都大学と東北大学の同じ男声OB合唱団の賛助を得まして、にぎやかなコンサートでした。我々東大はプーランクというフランスの作曲家の宗教曲のステージと、シューベルトなどドイツもののステージを持ちました。京大はパレストリーナ、東北大は信時潔作曲の「沙羅」、とそれぞれの合唱団の特色が良く出た各校のステージが進んだあと、最後は合同ステージです。

合同演奏では日本の男声合唱曲の原点である多田武彦さんの「柳河」や「富士山」からの抜粋をやりました。これらの歌はみんな若い時から何度となく歌ってきた、青春の思い出のいっぱい詰まった歌。力が入りました。指揮者の三澤洋史先生も原点は高校時代の男声合唱という方ですから、これまた熱が入りました。舞台の上では総勢120名のおじさんパワーが炸裂。それはそれは熱気のある演奏でした。途中で拍手が来ちゃったくらいです。そして最後はアンコールの「千の風になって」をお客様と一緒に歌い、歌声もココロも一つになって、感動的な瞬間でした。(曲名などはその筋の人にしかわからなくて、すみません)


私と合唱の縁は浅からぬものがありまして、実は私の両親は、同じ合唱団で歌っていて知り合って結婚した、団内結婚なのです。もし合唱というものが無かったら私はこの世に生を受けていないわけですから、合唱に背中を向けては寝られない身なのです。ちなみに両親が知り合ったのは昭和20年代の終わりごろのこと。歌うこと歌えることの喜びが今よりずっと大きかった時代です。

両親はカトリック信者で、芦屋教会の聖歌隊員でもありました。私も幼い頃から毎週日曜日は連れられて教会に行き、2階の聖歌隊席の手すりの隙間からミサを覗いてたものでした。だから初めて触れたコーラスというのは教会の聖歌でありました。もう少し大きくなってからは一緒に歌ったこともありましたが、正直言って子供には辛気臭くて、あまり好きにはなれませんでした。

その教会で、私が高校生の頃に、モーツァルトの戴冠ミサを演奏するという企画があり、聖歌隊の皆さんと一緒に私も歌わせてもらったのです。ちっちゃいけれどオケもついて。これはすばらしい体験でした。初めてホンモノの音楽に肌で触れた瞬間でした。その当時教会の神父様が「歌はお祈りの何倍もの効果があります」とおっしゃったのをこれ幸いと、現在でもお祈りはしないのですが宗教曲は折に触れて歌い続けています。

前後しますが初めて合唱団に入ったのは、高校のグリークラブでした。男子校でしたから当然男声合唱。横を阪神電車がゴーっと走る音楽室で、西日に照らされながら歌ったのが「雨」・・・

あ、「雨」というのは先ほどの多田武彦男声合唱組曲の、古典中の古典というべき曲です。そして大学に進学しますと、先輩が一足先に入っていましたのでもう自動的に男声合唱団へ。高校大学と合わせて7年間男声合唱に浸っていました。いずれでも責任学年では学生指揮者をおおせつかりました。ちなみにこれを通称ガクシキと呼びまして、それをやった者はガクシキケイケンシャと呼ばれます。

ところが社会に出ますと当然ながら仕事仕事の毎日で、合唱など全く省みる余裕も無い生活を送ること15年。そんなある日、職場の合唱団の女性から、「演奏会をやるので聞きに来ていただけませんか」というお誘いを受け、何をやるのと聞いてみた中に、多田武彦の「柳河」があったのです。懐かしさのあまり「これだけちょっと歌わせてくれない?」とお願いし、それがきっかけでリクルート混声合唱団に入り、再び合唱生活が始まったのです。会社を卒業するまでの10年間、歌い、踊り、指揮もし、アレンジもし、本当に楽しませてもらいました。

長くなってきたので端折りまして、そして現在では、職場の合唱団は引退させていただき、最初にご紹介した大学のOB合唱団で、歌うことと練習指揮者をやっています。もうひとつ、こちらはかなり本格的な、「21世紀のバッハ集団」を目指す東京バロック・スコラーズという合唱団で歌わせていただいています。この二つは、どちらも三澤洋史先生とおっしゃるもう本当にすばらしい指導者のもとでやってまして、これが音楽をやる幸せの根源ですね。三澤先生のホームページはこちらです。
http://mdr-project.hp.infoseek.co.jp/

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さて話は変わりますが、蕎麦屋をやり始めて、このごろ時折思うのですが、音楽と食事はとても共通点があるんです。最大の共通点は、時間芸術だということ。時間の経過と共に進行し、時間経過の中にのみ存在する。そしてその2時間なら2時間が終わったら、きれいさっぱり、もうそこには何も残らない。だから過ぎ去る時間の一瞬一瞬に、一つの音、一つの皿に、一生懸命気持ちを注ぎ込む。そこが私は好きです。

もう一つの共通点は、長い時間と膨大なエネルギーをかけて準備をし、本番のその瞬間に向かって気持ちを高めていくところでしょうか。本番は嵐のように一瞬で過ぎ去り、終わったあとには充実感と幸福な虚脱感が残ります。そこが結構似てるんですね。料理の仕込をし、蕎麦を打ちながら、そんなことを思います。

そして、蕎麦屋と、合唱団の練習指揮にも、すごく共通点があるのですよ。それは、みなさんに幸せな時間をすごしていただく、ということです。みなさんというのは、蕎麦屋ではもちろんお客様ですが、合唱団の練習では団員の皆さんです。アマチュアの合唱団というのは、一回一回の練習そのものが楽しみであり活動そのものでして、そこがプロとは違うところです。アマチュアにとってはむしろ練習こそ本番なのです。練習指揮者の仕事は、団員の皆さんに「今日の練習は楽しかった。今日も練習に来てよかった。」と思っていただけるような2時間を作ることでして、そこがすごく似ているのです。

だから、蕎麦屋と合唱は、実は私の中では同じこと、なのかも知れません。
ま、これだから、道楽蕎麦屋と言われるわけなんですけれど。昨日のように合唱の本番がある日はお休みですし・・・


そうそう、せっかくですのでひとつ宣伝をさせてください。先ほど申しました「21世紀のバッハ集団」東京バロック・スコラーズの今年の公演は、9月16日日曜日に大井町のきゅりあん大ホールにて行われます。詳細はこちらから。
http://misawa-de-bach.com/Concert.html
もし、聞きに行ってみようかなと思われた方は、どうぞメールを下さい。

今回はまた、特別に力が入りまして、長くなってしまいましてすみません。最後まで読んでくださって、ありがとうございます。

蕎麦さかい、皆様のお越しをお待ちしております。



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